孤独の夢
2003年2月27日 ―――俺は夢想にふけ、現実から逃げた男を知っている。この世で一番不幸な人間であった。昔は、平凡にこの世に生を受け、平凡でこの世に育まれ、平凡に生きた男だった。ところが、ある時を境に、瞬く間に窮地に落とされた。全面核戦争、小惑星衝突、地殻大変動、何があったのかは想像だにできないが、兎に角その星の大自然を揺るがす大災害があった。生き物は完全に淘汰された。その時、男は星の最果ての極地に埋もれていた。無実の罪で島流しにあったらしい。誰もいない極寒の地に投げ出された彼は、何もせずとも気を失った。白銀のベッドの中で永眠することになった直後に、星の不幸は起こった。不思議なことに、その大変革は男に再び生を与えた。コールドスリープの男は覚醒した。いつの間にか雪は晴れていた。雪解けのあと、現れた荒野に彼は足跡を付けた。吹き荒ぶ風は、その軌跡を一瞬にして消し去る。彼は全ての皮肉を察した。死すべきはずであった自分が生き、生きるべきはずであった他人が全て死んだことを。それでも、ある程度の時間は生を共有できる仲間を捜し歩いた。余力が尽きると、彼は自ら死を望んだ、が、できなかった。多くの人々の不幸を目にしているのだ。死の恐怖を克服などできるはずがない。男は逃げた。存在の無い現よりも、存在を生み出せる夢の中へ。
その男と同じ境遇で、偶然生き延びた俺はその様を見つけて愕然とした。不幸を歩いてやっと巡り合えた仲間が、現を捨て夢の中の人間になっていた。絶対の揺り篭から男を救い出すことはできなかった。俺は孤独の夢に別れを告げ、孤独の中を立ち去っていった。同じ境遇の男がもう一人いたのだ。同様にして生き延びた人がいるかもしれない。死を超える恐怖の果てに、俺はそのことを話す相手を見つけた。それが君だ。
―――目覚めよ。
その男と同じ境遇で、偶然生き延びた俺はその様を見つけて愕然とした。不幸を歩いてやっと巡り合えた仲間が、現を捨て夢の中の人間になっていた。絶対の揺り篭から男を救い出すことはできなかった。俺は孤独の夢に別れを告げ、孤独の中を立ち去っていった。同じ境遇の男がもう一人いたのだ。同様にして生き延びた人がいるかもしれない。死を超える恐怖の果てに、俺はそのことを話す相手を見つけた。それが君だ。
―――目覚めよ。
コメント